医学的に原因不明(unexplained infertility)とは何か
原因不明の不妊とは、原因が明らかでない不妊を意味します。これは臨床上の作業用語であり決定的な評価ではありません。十分な期間妊娠しないにもかかわらず、通常行われる検査で明確な原因が示されない場合に用いられます。
「原因不明」とは原因が存在しないという意味ではありません。一般的な検査で明確に検出できないか、複数の軽度の要因が合わさっていて個々では正常域のぎりぎりにある、ということを意味します。
典型的に基礎診断が異常を示さない項目
検査の順序や詳細は年齢、既往歴、症状によって異なりますが、多くのガイドラインで繰り返される主要なポイントは同じです:排卵が起きているか、卵管や子宮に構造的な異常がないか、精液検査が説明になるかどうかです。
欧州生殖医学学会(ESHRE)などは原因不明の不妊に関する推奨を示しており、評価や治療の方針が示されています。ESHRE: Guideline on unexplained infertility。
重要なのは基礎診断の質です。単回の精液検査や仮定に基づく周期評価が早計に正常と判断されることがあります。基礎が確かであるほど「原因不明」という診断の信頼性は高くなります。
なぜ「原因不明」が「説明不能」とは限らないのか
生殖は多段階のプロセスです。複数の段階で小さなズレが重なると、各検査で明確な異常が出ないまま周期あたりの妊娠確率が下がることがあります。
- 卵子や胚の質は標準的な検査値から直接推測できません。
- 卵管は単なる通り道ではなく、輸送や成熟に関与する機能的な器官であり、その機能は測定が難しいです。
- 排卵、精子の利用可能性、子宮内膜の状態のタイミングは微妙で、周期ごとに変動します。
- 軽度の子宮内膜症や微小な炎症は、基礎検査では明確に見えないことがあります。
- 精子の検査値が正常域であっても機能的な問題を完全には除外できません。
これが、原因不明の診断を受けたカップルが自然妊娠することがある理由でもあります。確率はゼロではなく、ただ低めまたは変動しやすいということです。
どのような場合にこのラベルが付くことが多いか
明確なリスク要因がなく、周期が比較的規則的で、重度の子宮内膜症、卵管損傷、あるいは著しい精子異常の明確な所見がない場合に原因不明とされることが多いです。
また時間が重要な要素になる場合にもこのラベルが付きやすいです。ある段階を過ぎると完璧な説明を追うよりも、現実的に周期あたりの妊娠率を上げる次の一手を検討することが優先されます。
現実的な期待値と予後
最も重要な予後因子の一つは卵子を持つ側の年齢です。卵子の質や染色体異常の率は年齢依存的です。これに、妊娠希望期間、既往症、個々の所見が加わります。
ガイドラインは、多くの場合、終わりの目安を設定した構造化されたアプローチを推奨し、際限のない検査を避けることを勧めます。ヨーロッパの文脈ではESHREの推奨が参考になり、英語圏では各国のガイドラインも臨床で参照されます。NICE: Fertility problems assessment and treatment。
次に取ると医療的に合理的なステップ
次のステップは時間的な制約の有無や妊娠希望期間によって決まります。多くの場合、利益、負担、費用のバランスを考えた段階的な計画が適切です。
- これまで不確かだった場合は、タイミングと周期理解の最適化。
- 経過で明らかになった軽度の異常に対する治療。
- 特定の状況では、期間を区切った人工授精(IUI)などの戦略。
- 時間的余裕が少ない、または予後が厳しい場合は、周期あたりの成功率が高い体外受精(IVF)を選択肢とすること。
目的は最大限の努力をすることではなく、状況に合った計画を立て、根拠の乏しい追加施策で過剰にならないことです。
しばしば過大評価される追加検査
多くの追加検査は隠れた原因を示唆すると売り出されます。特定の状況で有用なものもありますが、マーケティング色が強いものもあります。注意信号は、検査結果が明確な治療方針につながらない場合やカットオフが標準化されていない場合です。
- 明確な適応なしに行われる広範な免疫プロファイル検査で、それに基づく治療の有効性を裏付ける確かな証拠がないもの。
- ラボごとにカットオフが異なり再現性が不明な非標準化検査。
- 出産率の向上を示す説得力のあるデータがないのにブースターとして売られる介入。
何が本当にエビデンスに基づくかを判断するには、専門学会の見解を参考にする価値があります。米国生殖医学会(ASRM)は診療に即した評価や治療の位置づけ、エビデンスの限界について公布しています。ASRM: Practice guidance。
誤解と事実
- 誤解:原因不明の不妊は医学的にすべてが完璧であることを意味する。事実:標準検査で単一の明確な原因が示されないだけで、関連する要因が最適であるとは限りません。
- 誤解:原因不明ならばさらに検査を続ければいつか隠れた一つの原因が見つかる。事実:多くは多因子性であったり、現行の検査で確実に測定できないことがあり、良い治療計画の方が追加検査より重要なことが多いです。
- 誤解:原因不明=自動的に体外受精が必要である。事実:年齢、期間、所見に応じて段階的な対応が適切な場合もあり、時間軸を現実的に設定することが重要です。
- 誤解:正常な精液検査は男性因子を除外する。事実:重度の障害は除外されることが多いですが、機能的な問題は依然として影響する可能性があります。
- 誤解:新しい単一の検査で予後が確実に改善する。事実:検査は治療方針を変え、なおかつ生児出生率を改善する証拠がある場合にのみ価値があります。
- 誤解:すぐに妊娠しないのは免疫のせいである。事実:免疫学的原因は特定の条件下で重要になり得ますが、一般的な評価で標準的に主要因とするべきではありません。
- 誤解:ストレスが原因なのでリラックスすれば治る。事実:ストレスは負担となり行動に影響を与えることはありますが、妊娠が成立しない主たる医学的原因であることは稀です。
- 誤解:原因不明は永久的なラベルである。事実:所見は経時的に変わることがあり、後に原因が判明することもあれば、同時に自然妊娠することもあります。
費用と実務的な計画
原因不明の不妊は高額になりがちですが、それは単一の大きなステップのせいではなく、小さな決定が積み重なるためです。実践的な計画を立てることで、追加検査を追いかけるより節約になることが多いです。
- あるステップをどれくらい試すか事前に期間を決めておきましょう。
- 各検査で、陽性・陰性の結果が出た場合に具体的に何が変わるかを確認してください。
- 治療が提案されたら、それによって生児出生率が実証的に上がるのか、あるいはエビデンスが不明瞭な選択肢なのかを明確に説明してもらいましょう。
いつ医師の相談が特に重要か
妊娠希望期間が長い場合、流産の既往がある場合、周期が非常に不規則な場合、強い痛みが子宮内膜症を示唆する場合、あるいは年齢が明らかに時間的制約を高める場合には相談が特に重要です。
多くの追加検査が提案される場合でも、セカンドオピニオンを求める価値はあります。常に中心となる問いは同じです:合理的なリスクと負担で健康な出産の可能性をどう高めるか、です。
結論
原因不明の不妊は、基礎診断が適切に行われている場合には有用で医学的に妥当な診断です。「不明」であっても「説明不能」ではありません。
最良のアプローチは、現実的な時間枠とエビデンスに基づくステップを含む明確な計画であり、期待ばかりを煽る追加検査や治療に振り回されないことです。

