精液検査(スクリーニング)は、妊娠を希望するカップルにとって最初の重要なステップです。WHO基準に基づき、精子の濃度・運動率・形態などをデジタル解析し、自然妊娠の可能性を評価します。本記事では日本の検査の流れ、費用、WHO基準値、精子の質を高める生活習慣を解説します。
精液検査とは?
精液検査は男性の生殖能力を評価するラボ検査です。主な項目は以下の通りです。
- 精子濃度: 1mlあたりの精子数
- 運動率: 前進運動・全体の運動性
- 形態: 正常形態の精子の割合
- 精液量: 採取された精液の総量
- 生存率: 生きている精子の割合
- pH値: 炎症や酸塩基バランスの指標
- 白血球: 増加は感染症の可能性
これらの項目で自然妊娠の可能性や治療方針が判断されます。
精液検査が推奨されるタイミング
日本のガイドラインでは、12ヶ月以上避妊なしで妊娠しない場合に精液検査を推奨しています。 日本産科婦人科学会ガイドライン
- 一次性・二次性不妊症
- ホルモン異常が疑われる場合
- 手術・放射線治療後の確認
- 繰り返す流産
- 精巣・副精巣の疾患歴
小児期の停留精巣や化学療法後も早期検査が推奨されます。
費用と保険適用
日本では精液検査は約3,000~8,000円が目安です。医師の指示があれば健康保険が適用される場合もあります。クリニックによっては複数回セットや再検査パックもあります。事前に費用・保険適用を確認しましょう。
検査の流れと準備
準備:
- 2~5日間の禁欲(射精しない)
- 検査前48時間は飲酒・喫煙・薬物を控える
- 発熱・感染症・長時間のサウナは避ける
- 十分な睡眠とストレス管理
採取方法:
- 手洗い・性器は水と石鹸で洗浄
- 潤滑剤やシリコンオイル入りコンドームは使用不可
- 全量を滅菌容器に採取
自宅採取の場合は体温(約37℃)を保ち、60分以内にクリニックへ提出します。
WHO精液検査基準値(2021年版)
WHOラボマニュアル(第6版, 2021年) による基準値は以下の通りです。
- 精液量: 1.5ml以上
- 精子濃度: 1mlあたり1,500万個以上
- 総精子数: 1回あたり3,900万個以上
- 全運動率: 40%以上
- 前進運動率: 32%以上
- 正常形態: 4%以上
- 生存率: 58%以上
- pH値: 7.2以上
基準値未満でも必ずしも不妊症とは限りません。総合的な判断が重要です。
ラボ品質と信頼性
精液検査の精度はラボの品質管理に左右されます。ISO15189認定や外部精度管理(例:QuaDeGA)、WHOプロトコール遵守が重要です。2名以上の技師によるダブルチェックが推奨されます。
検査時間と結果説明
顕微鏡分析は60~120分。結果は2~4営業日で出ます。多くのクリニックはオンラインポータルで結果を確認でき、医師が詳細を説明します。
異常値の意味と分類
- 乏精子症(Oligozoospermia): 精子数が少ない
- 精子無力症(Asthenozoospermia): 運動率が低い
- 奇形精子症(Teratozoospermia): 正常形態が少ない
- 極少精子症(Kryptozoospermia): 極端に低い濃度
- 無精子症(Azoospermia): 精子が検出されない
自然変動を除外するため、通常は6週間間隔で2回検査します。
精子の質が低下する主な原因
- ホルモン異常(テストステロン、FSH、LH、プロラクチン)
- 遺伝的異常(クラインフェルター症候群など)
- 感染症(クラミジア、ムンプスなど)
- 生活習慣:喫煙、飲酒、肥満、慢性ストレス
- 環境要因:高温、農薬、プラスチック、マイクロプラスチック
一時的な発熱や薬剤も結果に影響する場合があります。
精子の質を高める6つの実践アドバイス
- 食事: 抗酸化物質(ビタミンC/E、亜鉛)、オメガ3、野菜・果物を多く摂取
- 運動: 適度な運動、過度な高温(長距離自転車・サウナ)は避ける
- 禁煙・飲酒制限: 有害物質を避ける
- ストレス管理: 瞑想・ヨガ・呼吸法
- 陰嚢を冷やす: 緩い下着、膝上ノートPCは避ける
- サプリメント: コエンザイムQ10やL-カルニチンは医師と相談の上で
Nagy et al., 2021 などの研究で生活習慣改善が精子数・運動率に有効とされています。
追加検査と治療選択肢
異常値の場合は追加検査が推奨されます:
- ホルモンプロファイル
- 遺伝子検査(染色体・Y染色体微小欠失)
- 精巣・副精巣の超音波
- DNA断片化検査
- 無精子症の場合はTESE/MESA(手術的採取)
自然妊娠が難しい場合は、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)が選択肢となります。
正常値の場合の次のステップ
正常値の場合は男性側の原因はほぼ除外できます。妊娠しない場合は女性側の周期・ホルモン・子宮卵管造影などを検討しましょう。専門クリニックで総合的な相談がおすすめです。
まとめ
精液検査は男性不妊の診断に不可欠です。異常値は生活習慣改善や治療で多くが改善可能です。正常値でも妊娠しない場合はパートナーと一緒に総合的な検査を受けましょう。妊娠はチームワークです。