精液検査(スクリーニング)―費用・WHO基準・精子の質を高めるコツ(日本版)

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執筆:フィロメナ・マルクス2025年6月9日
日本のラボで精液サンプルを顕微鏡分析する様子

精液検査(スクリーニング)は、妊娠を希望するカップルにとって最初の重要なステップです。WHO基準に基づき、精子の濃度・運動率・形態などをデジタル解析し、自然妊娠の可能性を評価します。本記事では日本の検査の流れ、費用、WHO基準値、精子の質を高める生活習慣を解説します。

精液検査とは?

精液検査は男性の生殖能力を評価するラボ検査です。主な項目は以下の通りです。

  • 精子濃度: 1mlあたりの精子数
  • 運動率: 前進運動・全体の運動性
  • 形態: 正常形態の精子の割合
  • 精液量: 採取された精液の総量
  • 生存率: 生きている精子の割合
  • pH値: 炎症や酸塩基バランスの指標
  • 白血球: 増加は感染症の可能性

これらの項目で自然妊娠の可能性や治療方針が判断されます。

精液検査が推奨されるタイミング

日本のガイドラインでは、12ヶ月以上避妊なしで妊娠しない場合に精液検査を推奨しています。 日本産科婦人科学会ガイドライン

  • 一次性・二次性不妊症
  • ホルモン異常が疑われる場合
  • 手術・放射線治療後の確認
  • 繰り返す流産
  • 精巣・副精巣の疾患歴

小児期の停留精巣や化学療法後も早期検査が推奨されます。

費用と保険適用

日本では精液検査は約3,000~8,000円が目安です。医師の指示があれば健康保険が適用される場合もあります。クリニックによっては複数回セットや再検査パックもあります。事前に費用・保険適用を確認しましょう。

検査の流れと準備

準備:

  • 2~5日間の禁欲(射精しない)
  • 検査前48時間は飲酒・喫煙・薬物を控える
  • 発熱・感染症・長時間のサウナは避ける
  • 十分な睡眠とストレス管理

採取方法:

  • 手洗い・性器は水と石鹸で洗浄
  • 潤滑剤やシリコンオイル入りコンドームは使用不可
  • 全量を滅菌容器に採取

自宅採取の場合は体温(約37℃)を保ち、60分以内にクリニックへ提出します。

WHO精液検査基準値(2021年版)

WHOラボマニュアル(第6版, 2021年) による基準値は以下の通りです。

  • 精液量: 1.5ml以上
  • 精子濃度: 1mlあたり1,500万個以上
  • 総精子数: 1回あたり3,900万個以上
  • 全運動率: 40%以上
  • 前進運動率: 32%以上
  • 正常形態: 4%以上
  • 生存率: 58%以上
  • pH値: 7.2以上

基準値未満でも必ずしも不妊症とは限りません。総合的な判断が重要です。

ラボ品質と信頼性

精液検査の精度はラボの品質管理に左右されます。ISO15189認定や外部精度管理(例:QuaDeGA)、WHOプロトコール遵守が重要です。2名以上の技師によるダブルチェックが推奨されます。

検査時間と結果説明

顕微鏡分析は60~120分。結果は2~4営業日で出ます。多くのクリニックはオンラインポータルで結果を確認でき、医師が詳細を説明します。

異常値の意味と分類

  • 乏精子症(Oligozoospermia): 精子数が少ない
  • 精子無力症(Asthenozoospermia): 運動率が低い
  • 奇形精子症(Teratozoospermia): 正常形態が少ない
  • 極少精子症(Kryptozoospermia): 極端に低い濃度
  • 無精子症(Azoospermia): 精子が検出されない

自然変動を除外するため、通常は6週間間隔で2回検査します。

精子の質が低下する主な原因

  • ホルモン異常(テストステロン、FSH、LH、プロラクチン)
  • 遺伝的異常(クラインフェルター症候群など)
  • 感染症(クラミジア、ムンプスなど)
  • 生活習慣:喫煙、飲酒、肥満、慢性ストレス
  • 環境要因:高温、農薬、プラスチック、マイクロプラスチック

一時的な発熱や薬剤も結果に影響する場合があります。

精子の質を高める6つの実践アドバイス

  • 食事: 抗酸化物質(ビタミンC/E、亜鉛)、オメガ3、野菜・果物を多く摂取
  • 運動: 適度な運動、過度な高温(長距離自転車・サウナ)は避ける
  • 禁煙・飲酒制限: 有害物質を避ける
  • ストレス管理: 瞑想・ヨガ・呼吸法
  • 陰嚢を冷やす: 緩い下着、膝上ノートPCは避ける
  • サプリメント: コエンザイムQ10やL-カルニチンは医師と相談の上で

Nagy et al., 2021 などの研究で生活習慣改善が精子数・運動率に有効とされています。

追加検査と治療選択肢

異常値の場合は追加検査が推奨されます:

  • ホルモンプロファイル
  • 遺伝子検査(染色体・Y染色体微小欠失)
  • 精巣・副精巣の超音波
  • DNA断片化検査
  • 無精子症の場合はTESE/MESA(手術的採取)

自然妊娠が難しい場合は、体外受精(IVF)顕微授精(ICSI)が選択肢となります。

正常値の場合の次のステップ

正常値の場合は男性側の原因はほぼ除外できます。妊娠しない場合は女性側の周期・ホルモン・子宮卵管造影などを検討しましょう。専門クリニックで総合的な相談がおすすめです。

まとめ

精液検査は男性不妊の診断に不可欠です。異常値は生活習慣改善や治療で多くが改善可能です。正常値でも妊娠しない場合はパートナーと一緒に総合的な検査を受けましょう。妊娠はチームワークです。

よくある質問(FAQ)

精液検査は男性の生殖能力を評価するラボ検査です。精子濃度、運動率、形態、精液量、生存率、pH値、白血球数などを分析します。

12ヶ月以上妊娠しない場合や、リスク因子(停留精巣、外傷、化学療法・放射線治療歴)がある場合は早めの検査が推奨されます。

クリニックまたは自宅でマスターベーションにより採取。手洗い・性器洗浄後、潤滑剤やシリコンオイル入りコンドームは使用不可。体温を保ち60分以内に提出。

2~5日間の禁欲、飲酒・喫煙・薬物を控える、発熱や感染症は避ける、十分な睡眠とストレス管理。

日本では約3,000~8,000円が目安。医師の指示があれば健康保険適用の場合もあります。

顕微鏡分析は60~120分。結果は2~4営業日で出ます。オンラインで確認できるクリニックもあります。

精液量1.5ml以上、濃度1,500万/ml以上、総数3,900万以上、運動率40%以上、前進運動率32%以上、正常形態4%以上、生存率58%以上、pH7.2以上。

乏精子症(数が少ない)、精子無力症(運動率低い)、奇形精子症(形態異常)、無精子症(精子なし)など。通常は2回検査します。

ISO15189認定や外部精度管理、WHOプロトコール遵守が重要です。2名以上の技師によるダブルチェックが推奨されます。

自然変動を除外するため、通常は6週間間隔で2回検査します。

ホルモン異常、遺伝的異常、感染症、生活習慣(喫煙・飲酒・肥満・ストレス)、環境要因(高温・農薬・プラスチック)など。

はい。慢性的なストレスはホルモンバランスを乱し、濃度・運動率・形態に悪影響を及ぼします。瞑想やヨガがおすすめです。

ビタミンC/E、亜鉛、オメガ3などは有効ですが、効果は個人差があり医師と相談しましょう。

野菜・果物中心の食事、適度な運動、禁煙・飲酒制限、ストレス管理、緩い下着、陰嚢の高温回避が有効です。

ホルモン・遺伝子・超音波・DNA断片化検査、必要ならTESE/MESA(手術的採取)など追加検査を行います。

IVFは体外受精、ICSIは1個の精子を直接卵子に注入。精子数が少ない場合はICSIが有効です。

保険適用の場合もありますが、遺伝子検査や手術は自己負担が必要な場合があります。事前に確認しましょう。

泌尿器科・不妊治療クリニック・専門ラボで受けられます。ISO認定・WHO準拠の施設がおすすめです。

正常値でも妊娠が成立しない場合は、パートナーと一緒に総合的な検査を受けましょう。

抗生物質・抗がん剤・ステロイドなどは一時的に値を変化させることがあります。事前に医師に申告しましょう。