はじめに
本稿は「機器」に焦点を当てます。どんなタイプがあるか、どう測るのか、実際にどれだけ役立つのか、そして安全かつデータ最小化の方針でどう使うか。メーカー中立の立場で、信頼できる基礎知識やガイドラインに基づいて解説します。
機器の概要&目的別の使い分け
排卵トラッカーは大きく4クラスに分類できます。目的によって適したシステムは異なります。
- 尿中ホルモン検査(OTK、リーダー):LHを主に、場合によりE3GやPDGも測定し、排卵の12〜36時間前を予測。
- BBTウェアラブル/パッチ(腕・腋下・耳):夜間の体温=基礎体温で排卵を確認。
- 腟内センサー/リング:体幹に近い部位で連続測定し、密なカーブで確実に確認。
- アプリ/症状・体温併用法:体温・頸管粘液・検査結果をルールベースで評価(追加ハード不要)。
目的の明確化がカギ:妊活の「段取り」を重視するならLHなど先行シグナルが有利。パターン理解や排卵確認が目的なら体温トレンドに注目。自然な方法の基礎:NHS。
尿中ホルモン検査(LH/E3G/PDG)
測定原理とハードウェア
尿中のLHサージを検出します。デジタル型はエストラジオールやプロゲステロン代謝産物も測定。リーダーやアプリがカーブを可視化し、解釈を支援します。
強み
- 行動に直結する短い予測ウィンドウを提示。
- 入手しやすく、導入のハードルが低い。
限界と使い方
- 試験紙の継続コスト。開始日程は周期長に合わせる。
- PCOSなど特異的パターンでは解釈が難しくなることがある。
検査支援によるタイミングの有用性:Cochrane。臨床的な目安:NICE CG156。
BBTウェアラブル&パッチ
測定原理とハードウェア
腕・腋下・耳などに装着したセンサーが睡眠中の体温変化を記録。基礎体温や睡眠時体温のカーブを作ります。
強み
- 朝の測定ルーティンなしで自動記録。
- 排卵確認に適し、周期パターンの把握に役立つ。
限界と使い方
- 睡眠不足・発熱・飲酒・時差・交代勤務などの影響を受けやすい。
- 排卵前の「予測力」は限定的。数周期の学習期間が有用。
自然な方法の参考情報:NHS。
腟内センサー&リング
測定原理とハードウェア
腟内センサーで連続測定(中核体温や電気伝導度)。皮膚表面より測定環境が安定。就寝中のみ、または継続装着+定期同期で運用します。
強み
- 高密度な時系列データで排卵を明確に確認。
- 黄体期の長さなど、周期の特徴づけに向く。
限界と使い方
- 初期費用、装着感、衛生管理への配慮が必要。
- 事前予測力は限定的で、確認やトレンド把握が主目的。
アプリ&症状・体温併用法
測定原理とハードウェア
体温・頸管粘液・検査結果などの入力を定義ルールで処理し、妊娠しやすい日や確認シグナルを表示します。
強みと限界
- 低コストで全体像を把握しやすく、検査との併用も柔軟。
- 観察の正確さと継続入力が品質を左右。
詳細情報:NHS。
一般向けウェアラブル
一般的なヘルス系ウェアラブルは体温や睡眠データを提供しますが、排卵特化機器ではありません。予測にはLH検査が有利、確認とトレンドには専用の体温トラッカーが優位です。
比較:技術・予測・手間
| 機器クラス | シグナル/技術 | 予測 or 確認 | 手間・お手入れ | 代表的な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 尿中ホルモン検査 | LH、場合によりE3G/PDG(光学リーダー) | 12〜36時間の予測 | 試験紙管理、適切なタイミング | 性行為やICIの能動的なタイミング設定 |
| BBTウェアラブル/パッチ | 基礎体温/睡眠時体温 | 確認とトレンド | 就寝時装着、充電・パッチ交換 | 周期理解、黄体期の把握 |
| 腟内センサー/リング | 中核体温 or 電気伝導度 | 確認と高密度カーブ | 挿入・洗浄・装着快適性 | 詳細分析、不明瞭なパターンの解像 |
| ハード不要のアプリ | ルール/アルゴリズム | 入力次第 | 継続的な記録が必須 | 低コストの入口 |
精度とエビデンス
タイミング目的ではLH検査の有用性が最も裏づけられています。体温系デバイスは排卵を確実に「事後確認」し、パターンの把握に役立ちますが、日常要因の影響を受けやすい面も。頸管粘液やインピーダンスは早期シグナルになり得ますが、研究の一貫性はやや限定的。周期不順や気になる症状がある場合はNICE CG156を受診目安に。患者向け情報はACOGやNHSが参考になります。
使い方・お手入れ・衛生
セットアップと学習期間
- 複数周期で測定し、自分の安定したパターンを把握。
- 一定の測定時刻か、夜間トラッキングを選択。
機器のお手入れ
- 腟内センサーは説明書どおりに洗浄し、完全に乾かす。
- パッチ/ウェアラブルは定期的に交換・充電。皮膚は乾いた状態を保つ。
- 体温計は正しい位置で、十分な時間計測する。
ミスを避けるコツ
- 発熱・飲酒・交代勤務・短い睡眠などの要因を記録。
- OTK(排卵検査)は周期長に合わせ、遅れず開始。
自然な方法を安全に使うための追加情報:NHS。
データ保護・エクスポート・連携
健康データは機微情報です。分かりやすい同意文、目的の明確化、データ最小化、暗号化処理を徹底しましょう。診療時に役立つCSVやPDFなどのエクスポート機能も有用。iOSのHealthKitやAndroid Health Connectとの連携は、明示的同意のもと、可能な限り端末内処理を優先します。
まとめ
機器選びは目的から。尿中ホルモン検査は短期の「予測」を支援し、体温系ウェアラブルや腟内センサーは「確認」とトレンド把握に強み。アプリは低コストで補完的。数周期の学習期間を見込み、外乱要因を織り込み、データ保護を重視すれば、排卵トラッキングは信頼性高く日常で活用できます。

