急激なLH上昇は、最も妊娠しやすい時期を示す最も確かなサインです。本ガイドでは、体内で何が起きているか、排卵検査薬の正しい使い方、本当に重要な数値、そして必要に応じて基礎体温・頸管粘液・臨床検査でタイミングを裏づける方法を、簡潔かつ網羅的に解説します。
基礎と定義
LH(黄体形成ホルモン)は下垂体で産生されます。卵胞期の終盤にLHが急上昇し、排卵を引き起こします。いわゆる「妊娠しやすい時期」は通常、排卵の5日前から排卵当日までを含みます。患者向けの信頼できる情報はNHSをご参照ください。NHS: Fertility in the menstrual cycle
- LH上昇: 排卵直前に起こる短く明瞭な上昇
- 排卵検査薬(OPK): 尿中LHの上昇を検出し、最も妊娠しやすい24〜36時間の窓を示す検査
- 排卵の確認: 排卵後の基礎体温のわずかな上昇とプロゲステロンの上昇で裏づけ
エビデンスと主要数値
- 妊娠しやすい時期: およそ6日間(排卵5日前+排卵日)。NHS
- LHのタイミング: 排卵検査薬の陽性は、多くの場合、排卵までの24〜36時間が最も妊娠しやすいことを示します。NICE CG156
- 精子の生存: 条件の良い頸管粘液内で最長5日。したがって、LH上昇前の性交が有効です。NHS
- 推奨頻度: 卵胞期後半に1〜2日に1回の性交。ACOG
- 重要: OPKはLHを手がかりに排卵を予測しますが、確定はしません。必要に応じて基礎体温やプロゲステロンで確認してください。NICE
手順
排卵検査薬の正しい使い方
- 開始日の設定: 28日周期ならおおむね10日目から開始。周期が長短の場合は前後に調整。
- 毎日同じ時刻に: 例として10:00〜20:00の間で毎日同時刻に検査。
- 水分摂取: ふだん通りに。尿を意図的に薄めたり濃くしたりしない。
- 判定と記録: 指定時間内に読み取り、アプリや表に記録。
- 陽性が出たら: 当日と翌日に性交を計画。排卵は通常24〜36時間以内に起こります。NHS
方法を組み合わせる
- 基礎体温(BBT): 小さな体温上昇で排卵を事後的に確認
- 頸管粘液: 透明でよく伸びる粘液はエストロゲン高値と排卵接近のサイン
- 血液検査・超音波: 不規則周期や生殖医療では有用な選択肢
安全と衛生
添付文書に従い、有効期限を確認し、清潔な採尿容器を使用し、指定の判定時間内に読み取ってください。デジタル検査薬では電池残量と表示記号の意味も確認しましょう。
実践のコツ
- 一貫性を重視:同じ時刻、同じメーカーで、想定ウィンドウ期間は毎日検査
- 検査スティックの写真を日付付きで保存すると、変化の傾向が見やすくなる
- ばらつきは普通:ストレス・睡眠・旅行・感染などでLH上昇の時期は前後する
- 「完璧な1日」より規則性:卵胞期後半に1〜2日に1回の性交が妊娠率を高めます。ACOG
比較と代替
| 方法 | 目的 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|---|
| 排卵検査薬(尿中LH) | 排卵の予測 | 自宅で簡便、24〜36時間の「前触れ」 | 確定は不可。PCOSでは非典型パターンが出ることあり |
| 基礎体温 | 排卵後の確認 | 低コスト、客観的 | 事前の予告はできない。睡眠や体調の影響を受けやすい |
| 頸管粘液 | 自然な観察 | 費用不要、エストロゲン変化に敏感 | 主観的評価で慣れが必要 |
| 血中LH・プロゲステロン・超音波 | 不規則周期、治療計画 | 医療機関で高い精度 | 受診の手間と費用がかかる |
生殖医療では、IUI・IVF・凍結胚移植のタイミングを、NICE推奨に沿って血液検査や超音波で調整することがよくあります。NICE CG156
指針と注意
排卵検査薬は月経周期の把握に用いる体外診断用医療機器です。妊娠計画の支援には有用ですが、医師の診断に代わるものではありません。CEマーキングのある製品を、説明書どおりに使用してください。陽性のLH上昇は排卵を予測しますが、確定はしません。確定には基礎体温、プロゲステロン、超音波などが適しています。アプリの利用時はプライバシー設定を確認し、必要最小限のデータのみ保存しましょう。
妊娠に至らない場合の受診の目安:35歳未満はおおむね12か月の規則的な試み後、35歳以上はおおむね6か月後。著しい周期不順、無月経、強い痛み、異常出血がある場合はより早期の受診を検討してください。詳細は各種ガイドラインをご参照ください。NICE
受診の目安
- 極端に不規則な周期、または3か月以上の無月経
- PCOS・甲状腺機能異常・高プロラクチン血症の疑い
- 強い痛み、発熱、通常と異なる出血
- 適切なタイミングにもかかわらず上記期間で妊娠に至らない

誤解と事実
- 誤解: 排卵検査薬が陽性なら必ず排卵する。事実: 陽性はLH上昇を示すサインで、排卵の確定はBBT・プロゲステロン・超音波で行う。
- 誤解: 排卵日は常に周期14日目。事実: 個人差があり一定ではない。黄体期の長さの方が比較的安定している。
- 誤解: 線が濃いほど妊娠率が高い。事実: 重要なのは検査の閾値を超えたかどうかで、色の濃さ自体ではない。
- 誤解: 1周期に1回の検査で十分。事実: LH上昇は短時間。想定ウィンドウ期間は毎日、必要に応じて1日2回検査する。
- 誤解: デジタル検査薬は常により正確。事実: 読み取りは容易になるが、生物学的に測っているものは試験紙と同じ。
- 誤解: 不規則周期ではLH検査は役に立たない。事実: 継続的な使用と頸管粘液・BBT・医療評価の併用で有用になり得る。
- 誤解: アプリだけで避妊は十分。事実: 周期管理アプリ単独は確実な避妊法にはならない。
- 誤解: 精子は数時間しか生きない。事実: 条件が良ければ最長5日生存し得るため、LH上昇前の性交が理にかなっている。
まとめ
LH上昇は最も妊娠しやすい時間帯を示します。排卵検査薬を一貫して活用し、陽性後24〜36時間以内の性交を計画し、必要に応じて基礎体温や検査で排卵を確認しましょう。疑問が続く、あるいは妊娠が長く成立しない場合は医療機関で評価を受けてください。LHに関する知識を安全かつ効果的に活用することが大切です。

