卵巣刺激(制御された卵巣刺激、COS)は、世界中の多くの不妊治療で中心的なステップです。目的は1周期で複数の卵胞を成熟させ、IVF/ICSIやIUIでの成功率を高めることです。現代のガイドラインは「最大数」よりも安全性、個別投与、および綿密なモニタリングを重視しています。患者向けの分かりやすい情報やエビデンスに基づく推奨は、厚生労働省や日本産科婦人科学会、国際的なガイドライン(例:ESHRE)で確認できます。
卵巣刺激とは?
卵巣刺激は、内服薬や注射によるホルモン刺激で卵巣を活性化し、複数の卵胞を成長させることを指します。IVF/ICSIではその後に採卵を行い、IUIでは多胎妊娠リスクを抑えるため通常1〜3個の成熟卵胞を目標とします。最終的な成熟誘導はトリガー注射(hCGまたはGnRHアゴニスト)で行います。
目的と現実的な期待
成功する刺激は「できるだけ多くの卵を得ること」ではなく、「十分で安全かつ質の良い卵を得ること」です。最適値は年齢、AMH/AFC、既往、治療法(IUI vs. IVF/ICSI)、および培養や施設の能力によって異なります。良質な施設では、用量とタイミングを調整して成功率と安全性のバランスを図ります。この点は厚生労働省や日本産科婦人科学会、国際ガイドラインでも強調されています。
プロトコール
アンタゴニスト法(短期)
一般的な標準法:周期2〜3日目からの毎日のFSH/hMG注射。卵胞の成長が始まると、GnRHアンタゴニストで早期のLH上昇を抑えます。最終段階はhCGまたはGnRHアゴニストでトリガーします。利点は柔軟性と安全性が高く、OHSSリスクが低い点です。
アゴニスト法(長期)
刺激開始前にGnRHアゴニストでダウンレギュレーションを行い、その後FSH/hMGを投与します。選択的に有用ですが、期間が長く副作用が増える可能性があります。
マイルド/ナチュラル修飾刺激
より低用量のゴナドトロピンや内服薬(Letrozol/Clomifen)を用い、少数だが十分な卵を目指す方法です。副作用や費用を抑えられる一方で、すべての患者に向くわけではありません。患者向けの概説は患者向け情報(HFEA)などでも確認できます。
薬剤
| クラス | 目的 | 例 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ゴナドトロピン(FSH/hMG) | 卵胞の成長促進 | FSHペン、hMG | 用量はAMH、AFC、年齢、BMI、既往に応じて設定 |
| GnRHアンタゴニスト | 早期のLH上昇を防ぐ | セトロレリックス、ガニレリックス | 短期プロトコールでよく使用 |
| GnRHアゴニスト | ダウンレギュレーション/トリガー選択肢 | リュープロレリン、トリプトレリン | トリガーとして使用するとOHSSリスクを低減 |
| 内服薬 | 主にIUI/マイルド刺激で用いる | レトロゾール、クロミフェン | 費用が抑えられ、採卵数は少なめ |
| プロゲステロン | 黄体期サポート | 膣用カプセル/ゲル | IVF/ICSI後の標準的治療 |
患者向けの薬剤概要は患者向け情報(HFEA:Fertility drugs)などを参照してください。
モニタリングと開始基準
開始前に問診、超音波(AFC)、ホルモン検査(AMHを含む)を確認し、地域により感染症スクリーニングなどで基礎リスクを評価します。刺激中は通常2〜4回の超音波と必要に応じてエストラジオール測定で用量とトリガー時期を調整します。
- 開始基準:AMH/AFC、年齢、BMI、周期パターン、既往治療、合併症。
- 目標サイズ:IUIは通常1〜3個の優位卵胞、IVF/ICSIは適度で良質な採卵数を目指します。
- トリガー:主要卵胞の径が概ね17–20 mmで判断(施設により差あり)。
制御と用量設定に関する一般的な推奨は、厚生労働省や日本産科婦人科学会、国際ガイドライン(例:ESHRE)を参照してください。
手順(ステップ・バイ・ステップ)
- 開始:周期2〜3日目に内服薬または注射を開始。
- コントロール:超音波と必要に応じてE2で用量調整、卵胞成長に応じてアンタゴニストを追加。
- トリガー:最終成熟のためにhCGまたはGnRHアゴニストを投与。
- その後の手順:IVF/ICSIはトリガー後約34–36 時間で採卵、IUIは指示に従い速やかに実施。
- 黄体期:施設の基準に従いプロゲステロンを投与。
詳細:手法の概要はIVF/ICSI、IUI、家庭内人工授精(ICI)との違いを参照してください。
成功率と採卵数
成功率は年齢、原因、ラボのプロセスや胚の発生段階に大きく依存します。多くの施設ではIVF/ICSIで中等量の採卵数を目標とし、IUIでは通常1個の優位卵胞で十分と考えられます。ガイドラインは、用量やプロトコールの選択を最大値ではなく個々のリスクに基づいて行うよう勧めています(例:ESHRE)。
安全性とOHSS予防
OHSS(卵巣過剰刺激症候群)はまれですが重要な合併症です。リスク因子には高いAMH/AFC、PCOS、若年、エストラジオール高値、攻撃的な用量設定などがあります。予防策としてはアンタゴニスト法、保守的な用量設定、GnRHアゴニストによるトリガー、必要時の「全凍結(freeze-all)」、綿密なモニタリングなどがあります。警告サインは急速な体重増加、腹囲の増大や痛み、呼吸困難、持続する嘔吐です。公的情報の例として厚生労働省のOHSS情報も参考になります。
黄体期サポート
IVF/ICSI後はプロゲステロン補充が標準的です。IUI後のプロゲステロン使用は国や施設により異なります。投与方法は膣用ゲルやカプセルが一般的で、注射は稀です。投与期間は通常妊娠検査時まで、妊娠成立後は施設の方針に従って継続されます。
比較と代替案
| アプローチ | 典型的適応 | 利点 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| アンタゴニスト法 | IVF/ICSI | 柔軟性がありOHSSリスクが低い | 毎日の注射と頻回のモニタリングが必要 |
| アゴニスト法 | 選択的適応 | 計画が立てやすく培養面での利点がある場合がある | 期間が長く副作用が増える可能性 |
| マイルド/ナチュラル修飾 | IUI、マイルドIVF | 副作用が少なく場合によっては費用を抑えられる | 採卵数が少ないため、すべての症例に適するわけではない |
薬剤負担の少ない選択肢については、患者向け情報(HFEA:IVFオプション)などで分かりやすく解説されています。
医師を受診すべき時
刺激中または刺激後に強い腹痛、呼吸困難、持続する嘔吐、めまい、急速な体重増加や腹囲の著しい増大があれば直ちに受診してください。また卵胞の成長が見られない場合、IUIで繰り返し多すぎる卵胞ができる場合、あるいは強い副作用が生じた場合は治療方針の見直しが必要です。卵巣刺激は必ず構造化されたモニタリングの下で医師が管理するべき治療です。
まとめ
国際的な共通点は、個別に計画し、綿密にモニターし、リスクを積極的に管理することです。適切なプロトコール選択、保守的な用量、安全なトリガーと明確な警告サインにより、IUIやIVF/ICSIのための卵巣刺激は効果的かつ責任を持って行うことができます。

