女性不妊症:原因・診断・治療ガイド(日本版)

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ザッペルフィリップ・マルクス
日本の不妊クリニックで診察を受ける女性

女性不妊症は、12ヶ月以上定期的な避妊なしの性交にもかかわらず妊娠しない状態を指します。日本でも約15%のカップルが不妊に悩み、その半数は女性側に原因があります。早期診断と適切な治療が重要です。

定義:一次性・二次性不妊症

一次性不妊症:これまで一度も妊娠したことがない場合。
二次性不妊症:過去に妊娠歴があるが、その後妊娠できない場合。

主な原因

女性不妊症の原因は、ホルモン、解剖学的異常、遺伝的要因、環境要因など多岐にわたります。

1. 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

PCOSは日本女性の約6~10%にみられ、インスリン抵抗性やアンドロゲン過剰により排卵障害を引き起こします。

  • 診断: ロッテルダム基準(不規則な月経、アンドロゲン過剰、超音波で多嚢胞性卵巣)
  • 治療:
    • 体重減少(5~10%)でホルモンバランス改善
    • メトホルミンでインスリン抵抗性改善
    • レトロゾールはクロミフェンより妊娠率が高い(Legro et al. 2014

2. 排卵障害(PCOS以外)

甲状腺機能異常(低下症・亢進症)や高プロラクチン血症も排卵を妨げます。

  • 診断: TSH、fT3/fT4、プロラクチン(周期2~5日目)
  • 治療: 甲状腺低下症にはL-チロキシン、高プロラクチン血症にはドパミン作動薬(例:ブロモクリプチン)

3. 子宮内膜症

子宮内膜症は子宮外に内膜組織が増殖し、癒着や痛みを引き起こします。

  • 診断: 腹腔鏡検査と組織診断
  • 治療: 腹腔鏡下手術で妊娠率が20~30%向上

4. 卵管因子

卵管の癒着や閉塞は、感染症後に多くみられ、受精卵の移動を妨げます。

  • 診断: 子宮卵管造影(HSG)
  • 治療: 卵管形成術や水腫治療、重度の場合は体外受精(IVF)

5. 子宮奇形・筋腫

子宮の形態異常や筋腫は着床障害の原因となります。

  • 診断: 3D超音波、子宮鏡検査
  • 治療: 子宮鏡下手術で妊娠率が30~40%向上

6. 遺伝・免疫因子

染色体異常や抗リン脂質抗体症候群(APS)は着床障害の原因です。

  • 診断: 染色体検査、自己抗体検査
  • 治療: 低用量ヘパリン+アスピリンで着床率向上

7. 原因不明不妊症

全ての検査で原因が特定できない場合は、人工授精(IUI)や体外受精(IVF)が選択肢です。

8. 男性因子

約40%のカップルで男性側にも不妊要因があります。

  • 精液検査(WHO基準): 15百万/ml以上、運動率40%以上、正常形態4%以上

診断の流れ

  1. 問診・周期記録(周期長・症状・生活習慣)
  2. ホルモン検査(FSH、LH、AMH、TSH、プロラクチン、エストラジオール)
  3. 経膣超音波(卵胞数・筋腫・嚢胞)
  4. 子宮卵管造影(卵管の通過性)
  5. 腹腔鏡検査(内膜症・癒着疑い時)
  6. 遺伝子検査(反復流産時)

年齢別の妊娠率

  • 35歳未満:30%
  • 35~39歳:20%
  • 40歳以上:10%

生殖補助技術:IUIとIVF

IUI: 1周期あたり10~15%の妊娠率
IVF: 1周期あたり25~35%の妊娠率
日本の平均費用:IUI 約3~5万円、IVF 約30~50万円

受診タイミング

35歳以上は6ヶ月、35歳未満は12ヶ月妊娠しない場合に受診を推奨します。

実践チェックリスト

  • 周期データ(基礎体温、頸管粘液、排卵症状)を記録
  • 検査結果・服用薬リストを準備
  • 超音波・HSGの予約
  • 保険・助成制度の確認

生活習慣と栄養

BMI 20~24、地中海式食事(野菜・果物・魚・オリーブオイル)が妊娠率を高めます。

  • 葉酸400μg/日、オメガ3脂肪酸1g/日
  • 週150分の有酸素運動
  • 加工食品・トランス脂肪酸は控える

環境要因と毒素

BPAやフタル酸などの環境ホルモンは卵子の質を低下させます。

  • プラスチック容器よりガラス・ステンレスを使用
  • 有機野菜で農薬摂取を減らす
  • 浄水器でPCB・重金属を除去

まとめ

女性不妊症は多様な原因がありますが、体系的な診断と個別治療、生活習慣の改善で妊娠率を高めることができます。専門医と連携し、最新のガイドラインに沿って治療を進めましょう。

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よくある質問(FAQ)

12ヶ月以上、定期的な避妊なしの性交でも妊娠しない場合、男性側に明確な原因がなければ女性不妊症と診断されます。

35歳未満は12ヶ月、35歳以上やリスク因子がある場合は6ヶ月妊娠しない場合に検査を推奨します。

問診、ホルモン検査(FSH、LH、AMH、TSH、プロラクチン)、超音波検査、卵管造影(HSG)などが一般的です。

不規則な月経、重度のニキビ、多毛、超音波で多嚢胞性卵巣が認められます。

腹腔鏡検査と組織診断が標準です。

卵管閉塞や形態異常が疑われる場合に行います。

全ての検査で原因が特定できない場合を指し、約10~15%のケースです。

35歳以上で卵子の数と質が低下し、40歳以上では流産率が高くなります。

はい。地中海式食事、適度な運動、ストレス管理、適正体重が妊娠率向上に役立ちます。

FSH、LH、エストラジオール、AMH、TSH、プロラクチンなどを測定します。

内視鏡を用いて骨盤内を直接観察する低侵襲手術です。主に内膜症や癒着の診断に用います。

卵管閉塞、AMH低値、重度の内膜症、原因不明不妊症で他の治療が無効な場合に適応となります。

抗リン脂質抗体などの自己抗体は着床障害の原因となり、血液検査で調べます。

AMH値は卵巣予備能の指標であり、治療方針や妊娠予測に役立ちます。

葉酸、D-キロイノシトール、オメガ3などは補助的に有効ですが、医学的治療の代替にはなりません。