精子はどれくらい生き残る?―事実、時間の目安、実践アドバイス(2025)

著者のプロフィール写真
執筆:フィロメナ・マルクス
さまざまな環境での精子の生存時間を説明する顕微鏡画像

精子がどれくらい生き残るかは、避妊の理解、妊活の計画、性教育に直結します。本稿では体内と体外での現実的な生存時間、温度・pH・乾燥といった鍵となる要因、よくある誤解をまとめました。根拠は NHSWHO Laboratory Manual 2021NICE CG156HFEA などの公的情報に基づきます。

精子と精液のちがい

精子は受精を担う男性の生殖細胞。精液は精子を包む保護・搬送の液体で、酸性に傾いた膣内環境を一時的に中和し、果糖などのエネルギーを供給し、酸化ストレスを低減します。この「保護環境」が失われる(皮膚・布・空気中で乾く)と、運動性は急速に低下し、乾燥後は受精能力がありません。

要点サマリー(数値の目安)

  • 体内(排卵期の頸管粘液~子宮・卵管)では通常 2~5日、最大でおよそ 5日 生存(NHS)。
  • 体外は短時間のみ。精液が湿っている間に限られ、乾燥すれば不活性。
  • 検査用の採取では、体温近くに保ち 約60分以内 の処理が推奨(WHO 2021)。
  • 持続的な高温は運動性低下とDNA損傷リスク上昇に関連(NICE)。
  • 長期保存は −196°C の凍結保存のみ有効(HFEA)。

つくられる場所と成熟の流れ

前駆細胞から受精可能な精子へ成熟するまでにはおよそ 2~3か月。運動性や受容体の反応性といった「機能的成熟」は主に副精巣で完了し、ここで 数週間 一時的に貯留されます。古くなった精子は分解・再利用され、長年にわたって蓄積されるわけではありません。

環境別の生存時間(現実的な目安)

  • 膣・子宮頸部(排卵期の頸管粘液):最大 5日。保護・誘導効果あり(NHS)。
  • 子宮・卵管:多くは 2~5日。粘液の質や局所免疫の影響を受けます。
  • 非排卵期の膣内:酸性が強く、目安は 数時間 程度。
  • 空気中・皮膚・手・衣類・寝具:乾燥するまで(薄い膜は 1~5分 で乾きやすい)。乾燥後は不活性。
  • 口腔・唾液: 数秒~数分 で運動性低下。酵素や浸透圧の差が原因。
  • 水道水・プール・海水:多くは 秒単位 で機能低下。温度変化や浸透圧、塩素が膜を傷めます。
  • コンドーム/採取カップ(室温):湿っている間のみ。多くは 数分~1~2時間未満。受精の起こる環境ではありません。
  • 採取カップ(約37°C):検査用は 約60分以内 に処理(WHO 2021)。
  • 凍結保存(−196°C):長期保存が可能で、解凍後も一定割合が生存(HFEA)。
  • 家庭用冷凍庫(−20°C):不適。氷結晶で細胞が壊れます。
  • ホットタブ・高温浴(約40°C):高温+薬剤で生存はごく短時間。

体内移動と妊娠しやすいタイミング

射精後、精子は 数分 で頸管、 数時間 で子宮・卵管へ到達。排卵前後には頸管クリプト(小さな粘液のポケット)に待機でき、最大 5日 の「受精チャンス」が維持されます。妊娠は 排卵日の5日前~当日 の性交で起こりやすいことが一貫した実データです(NHS)。

温度と臨界値

精巣は体幹よりやや低い温度で最適に働きます。座席ヒーター、ホットタブ、非常に熱い入浴、通気性の低いきつい衣類など、継続的な熱は運動性を下げ、長時間ではDNAの安定性にも影響し得ます(NICE)。

  • 34°C:精巣に好ましいレンジ。
  • 37°C(長時間の着座など):局所温度上昇とともに運動性低下が測定されます。
  • 40°C以上:運動性の明確な低下、DNA損傷指標の上昇。
  • 42°C超:短時間でも不活性化が速く進み、持続的影響の恐れ。

身の回りの熱源とテクノロジー

膝上ノートPC、前ポケットのスマートフォン、通気性の低い合成繊維の衣類は、局所温度と酸化ストレスを上げがちです。ノートPCは机の上で、スマホは上着やバッグに、衣類は通気性を重視するだけでもリスク低減につながります。

膝上ノートPCが陰嚢の局所温度を上げるイメージ
電子機器は熱を発するため、距離・設置面・使用時間を工夫する。s

精子の質を守る日常ヒント

  • 高温を避ける:ホットタブや極端に熱い入浴は控えめに。座席ヒーター・膝上ノートPCは直接接触を避ける。
  • 食事:野菜・果物・全粒穀物・オメガ3の摂取と十分な水分。
  • 活動と睡眠:週 約150分 の中等度運動、1日 7~8時間 の睡眠。
  • ライフスタイル:禁煙、飲酒の節度、ストレス対策(休養・就寝リズム)。
  • 妊活中:必要に応じて医療機関で精液検査を。手順と基準は WHO 2021 を参照。

保管と取り扱いの基本

短期の目的(検査・治療)は「採取後すみやかに体温近くで運搬し、約60分以内に処理」。長期保存は医療機関の凍結保存(−196°C)が標準で、家庭用冷凍庫は不適です(HFEA)。

受診の目安

  • 35歳未満:避妊せず定期的な性交で 12か月 妊娠しない場合。
  • 35歳以上: 6か月 妊娠しない場合。
  • 早めの受診:月経不順、排卵がない、強い痛み、基礎疾患がある、精液検査で異常が示唆された場合。

妊娠までにかかる期間の概略は NHS の解説が参考になります:How long it takes to get pregnant

神話と事実―短く明確に

  • 「精子は7日間いつでも生き残る」:現実的には排卵期の頸管粘液で最大5日、7日は例外的。
  • 「コンドーム内で長く受精可能」:湿っている間のみ短時間。乾燥後は不活性。
  • 「空気が当たるとすぐ死ぬ」:鍵は乾燥と浸透圧・化学条件。空気自体が毒ではない。
  • 「唾液は中性だから安全」:唾液は精子に不利で、短時間で運動性が落ちる。
  • 「家庭用冷凍庫で保管できる」:不可。長期は医療の凍結保存のみ有効。

まとめ

体内では排卵期に最大5日、生存の可能性が続きます。一方、体外では生存は短く、乾燥後は受精能力がありません。熱源を避け、生活習慣を整え、必要に応じて医療評価を受けることが、運動性と全体的な品質を守る現実的な方法です。

よくある質問(FAQ)

排卵期は多くの場合2~5日。頸管粘液・子宮内環境・免疫因子により変動する。

非排卵期の酸性環境では数時間程度。排卵期の頸管粘液があると上部へ移動し総生存期間が延びる。

報告は稀で一貫性に乏しいため、実務上の目安としては最大5日を用いるのが一般的である。

湿っている間は短時間活動できるが、薄い膜は1~5分で乾きやすく、乾燥後は不活性とみなされる。

湿っていれば数分。拭き取りや洗浄、乾燥によって速やかに不活性となる。石鹸洗浄で膜が破壊される。

布は液を素早く吸収し乾かすため、短時間で不活性化する。乾燥した残留物は受精能力を持たない。

内容が湿っている間のみ短時間(多くは数分~1~2時間未満)。受精が起こる環境ではない。

体温近くに保ち、可能であれば約60分以内に分析または処理を受ける。長い放置は運動性低下につながる。

浸透圧や温度差、塩素の影響で短時間で機能を失いやすい。水中での受精は現実的でないと考えられる。

唾液は酵素や浸透圧の性質から精子に不利で、活動は秒~分で低下する。口腔経由の妊娠は実質的に起こらない。

40°C付近から運動性低下が明瞭になり、42°Cを超えると短時間でも不活性化が加速する。頻回の高温曝露は避ける。

温度のみで一律には決まらないが、40°C以上は不利。体外では乾燥が主因で、薄い膜は数分で乾くことが多い。

薄い層は1~5分ほどで乾く場合が多い。乾燥後の残留物は受精能力がない。

界面活性剤やアルコールが膜やタンパク質を損傷し、短時間で不活性化する。手洗いにより妊娠リスクは実質的に取り除かれる。

銅イオンが精子の代謝や膜機能を阻害し、運動性を速やかに低下させる。避妊効果の主要メカニズムの一つである。

医療機関の凍結保存(−196°C)は長期保存に有効。家庭用冷凍庫(−20°C)では氷結晶により細胞が破壊されるため不適である。

一定して大きな差を示すエビデンスはない。周期や頸管粘液、免疫環境、性交のタイミングのほうが影響が大きい。

排卵の5日前から当日にかけ、1~2日に1回が主要日をカバーしやすい。個々の周期に合わせて調整する。

成熟完了まで2~3か月。副精巣では数週間留まるが、古い精子は分解され長期に蓄積されるわけではない。

新鮮な精液が直接外陰部や膣内に到達した場合に限り理論的可能性がある。拭き取り・洗浄・乾燥後は実質的に不可能と考えられる。